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華家+透姫水の合同サークル オフライン情報ブログ
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■ 156P ■ 2010/08/13 ■ 120g ■ 10mm ■ 1200円


 ハ、と意識が覚醒して目を開ける。見慣れない景色は、ここがミハエルのベッドだったから。
「あ……」
 夢を見ていたんだっけとベッドの上に起き上がり、もう少しで天井に着いてしまいそうだった頭を下げる。
 ミハエルはアルトより少しだけ背が高いから、起きる時はいつも気をつけていたりしたんだろうかと、笑った。
 こんな風に笑うのは、ミハエルがいなくなって、初めてのことだった。
 ふう、と息を吐き出して、すうと息を吸う。
「あいつ、まだ死んでない」
 呟いて、ベッドを見渡し、自分の体温で温まったシーツに触れた。これがミハエルの体温だなんて錯覚して、唾液を飲んだ。
 よし、と前を見据え、ベッドを降りる。こんなところでぐずぐずしていたら、きっとミハエルに怒られてしまう。あの男はそういう男だ。
 アルトは隊服に着替え、日課だった訓練に向かう。何名かを亡くしたせいでトレーニングルームも覇気がなかったが、アルトは自分に言い聞かせる。
 大丈夫だ、と。
「今日も行くのか」
「クラン大尉」
 シャワーを終えて、格納庫でミハエルの機体を見上げたアルトに、声がかかる。
「いい加減に受け入れろ、アルト」
「ミシェルは……生きてるよ」
 任務のためにとクァドランをチェックしていたクラン・クランの目が見開かれる。
 愛した男がいなくなったからといって戦争は終わるわけでもなく、軍人として整備をしていなければならない状況で、アルトの言葉は衝撃的だった。
「お前、アルト…なにを言っているのか、ちゃんと自分で理解しているか?」
 自分よりもかなり小さな人間を、クランは見下ろす。そのサイズは、愛したミハエルと同じくらいの。
 早乙女アルトはミハエルの親友であったはずで、この痛ましい惨劇で心をおかしくでもしてしまったのだろうかと青ざめた。
「ミシェルは、ミシェルはもういないんだ、お前だって見ただろうが!」
 ミハエルはこの男を大事にしていた。それは知っている。この男に恋をしていた。それも知っていた。
 だからこそ、アルトの行動と言葉は正してやらねばならない。慰めに捜しに行くだけならまだしも、もういなくなった人間を生きているだなんて。
「大丈夫、あいつはきっと生きてる」
「アルト……」
 クランは何かを言いかけて、そして目を伏せた。そう信じていないとやっていけない気持ちは、分かるつもりだった。
「どこにもいなくても……探すのか?」
「いるから、探すんだ。こんなこと、あんたに言うべきじゃないのかもしれないけど、あいつ……俺に好きだって言ってくれて」
 知っている、と返ってきた言葉に、アルトの方が驚いた。なぜ、それも平然と知っているなんて言えるのだろう。クランは、ミハエルを愛しているのではなかったのだろうか。
「あの、でも、あいつは……クラン大尉を」
 クランはひとつため息をつく。
「幼なじみというものは、お前が考えているよりずっと複雑で面倒なものなんだ。ずっと傍にいたからな」
 ヘルメットを抱え、アルトは不思議そうに見上げた。確かにアルトには幼なじみと呼ぶ存在はなかったが、それとこれとどういう関係があるのだろう。
「私はあいつの姉であり妹であり、友人であって恋人でもあり、母親のようでもある。私にとってのあいつも、そんなようなものだ。ただそこにいるのが当然のような存在だな」
 クランはネックレスにしたミハエルの眼鏡に触れ、懐かしむように呟いた。
「愛してはいるが、身体をつなげたいと思ったことはない」
「か、から……だ、って」
 かあっとアルトの頬が染まる。
 好きの種類がたくさんあることは、いくら鈍いアルトでも分かる。クランの中の気持ちは、恋とは違うものなの、だろうか。
「私たちは、家族だったんだ」
 そしてミハエルの中の、クランを想う気持ちとアルトを好きだという気持ちも、別物であるらしい。
「お前がどういう想いであいつを捜すのかは分からないが、もう止めん。好きなようにやるといい」
「……ありがとう、クラン」
 アルトは、笑う。寂しさでも、哀れみでもない、これから先を生きていける揺るぎない意志を誓うための、笑い顔だった。
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